2024年改正で変わった暦年贈与と相続時精算課税制度

2024年の税制改正概要

暦年贈与とは？

　暦年贈与とは、1年間を通じて親や祖父母などから贈与を受ける場合に適用される課税方式です。この制度では、1年ごとに基礎控除110万円が設けられており、この金額以内での贈与については贈与税が課されません。そのため、例えば毎年コツコツと基礎控除枠内で贈与を行うことで、相続時の財産総額を減少させることができるため、相続税の負担を軽減する手段として広く活用されています。

　しかし、2024年の税制改正では、生前贈与の加算期間延長や相続税への影響など、暦年贈与制度が従来と比較して大きな変更を迎えることになります。

改正の背景

　2024年の税制改正が行われる背景には、税制の公平性を高めるという目的があります。従来、暦年贈与制度は「相続税の補完税」として機能していましたが、計画的な生前贈与を利用することで相続財産を大幅に減らす手法が広く用いられてきました。この状況では、本来相続税の対象となるはずの財産が軽減され、税負担の公平性に影響していました。

　また、少子高齢化の進展に伴い、相続税や贈与税を通じた税収の確保が重要視されています。これにより、相続税と贈与税の一体課税を図る必要性が高まっており、今回の改正ではこれを踏まえた新たな制度設計が行われています。

改正の施行日と対象期間の詳細

　2024年の税制改正は、2024年1月1日から施行されます。この改正に伴い、相続開始時点での生前贈与加算期間が従来の3年から7年に延長されます。ただし、2023年12月31日までに行われた贈与については、従来どおり3年ルールが適用されます。

　また、今回の改正では、年間110万円の基礎控除が新たに相続時精算課税制度に取り入れられています。この控除により、基礎控除枠内での贈与は申告の必要がなくなるというメリットが追加されています。

税制改正で注目されるキーワード

　今回の税制改正において注目すべきキーワードは、「贈与税」、「暦年贈与」、「生前贈与」、「110万円基礎控除」、そして「相続時精算課税制度」です。特に、生前贈与における加算期間の延長や基礎控除制度の新設は、多くの家庭にとって相続税対策や贈与の計画を見直す重要なポイントとなります。

　また、「贈与税と相続税の一体課税」が進む中で、現行の贈与や相続に係る税制全般の仕組みを理解しておくことが、将来の税負担を最小化する鍵となります。これらのキーワードを把握し、専門家の指導を受けながら適切な対策を講じることが重要です。

110万円の基本控除とその意義

基本控除の仕組み：なぜ110万円が基準なのか

　現行の贈与税制度では、贈与を受けた金額のうち110万円までは「基礎控除」として非課税となっています。この110万円という金額は、財産の多寡に関わらず公平性を保つために定められた基準額です。また、小規模な贈与を日常的に行う家庭にとっても、税負担を軽減しやすいよう配慮された金額でもあります。さらに、年間の暦年課税の枠組みをわかりやすくするためにも、この金額が採用されています。

これまでの控除制度との違い

　これまでの贈与税制度において、暦年課税を選択した場合、贈与者ごとに1年間で110万円までが非課税となり、それを超える金額に対して税金が課される仕組みでした。一方で、2024年の税制改正では相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設されます。この変更により、相続時精算課税制度では贈与額が110万円以下の場合、贈与税が課されず申告も不要となります。これまでは相続時精算課税が選択された場合、すべての贈与額が課税対象とされ申告が必要だった点を考えると、今回の改正は大きな進展といえるでしょう。

どう活用する？110万円控除の具体例

　年間110万円の非課税枠を活用することで、多くの家庭では計画的に財産を分割して次世代に移転することが可能です。例えば親が子に100万円の現金を贈与した場合、申告の必要がなく贈与税もかかりません。また、住宅購入資金の一部として110万円以内の贈与を行うことで、子の負担軽減に役立てることもできます。さらに、この非課税枠を複数年かけて利用することで、大きな財産の相続対策を段階的に行うこともできます。この仕組みを活用すれば、生前贈与を通じて暦年課税制度の利点を存分に生かすことができます。

控除額変更の影響と注意点

　110万円の基礎控除額そのものには今回の税制改正で変更はありませんが、関連する改正により控除の意義を見直す必要性が増しています。特に、生前贈与加算期間の延長（3年から7年）や相続時精算課税制度への新たな基礎控除適用により、「いつ」「どの制度を使うか」を事前に計画的に決めることが重要となります。また、相続税と贈与税を一体で考える必要があるため、財産管理の方法次第では相続税負担が増える可能性もある点に注意が必要です。不明な点があれば早い段階で専門家に相談し、最適な対策を講じるべきでしょう。

生前贈与加算期間の延長と相続税の影響

加算期間3年から7年へ：何が変わるのか

　2024年の税制改正では、生前贈与の加算期間がこれまでの3年から7年へと延長されます。この改正により、相続税の対象となる贈与期間が大幅に拡大され、相続税計算に含まれる財産が増える可能性があります。具体的には、2024年1月1日以降の贈与について、相続開始前7年以内の贈与が相続税の課税対象に含まれることとなります。ただし、2023年12月31日までの贈与はこれまで通り3年ルールが適用されるため、改正前に贈与を計画することが重要なポイントです。また、総額100万円以下の贈与額については課税対象とならない仕組みが新たに導入され、その部分は相続財産に加算されません。贈与税と相続税の関係がより密接しますので、注意が必要です。

新制度がもたらす相続税への影響

　今回の税制改正では、生前贈与が相続税の課税対象に含まれる期間が長くなるため、相続税負担が増加する可能性があります。特に、改正後の加算対象となる7年間以内に多額の生前贈与を行う場合、相続時にこれらの贈与が加算されることで相続税額が大きくなると見込まれます。こうした改正は、贈与税と相続税を一体化させ、贈与を利用した節税対策を抑える目的があると言えるでしょう。一方で、年間110万円までの基礎控除が贈与税に新設されたため、計画的に贈与を行えば相続財産の圧縮も可能です。このように、ルール変更を理解し、事前に対策を講じることがこれまで以上に重要になっています。

節税対策としての生前贈与の再評価

　税制改正により、生前贈与はこれまでより慎重に計画する必要があります。改正前は、死亡の3年前までの贈与が相続税の課税対象となるため、3年間を意識した贈与計画が主流でした。しかし、加算期間が7年へと延長されることで、より長期的な計画が求められます。一方で、年間110万円の贈与税基礎控除の新設は、大きな節税対策として活用できます。この基礎控除を毎年使い、長期間かけて贈与を行うことで、総資産を計画的に減らす方法が効果的です。そのため、暦年贈与を利用し、早めに取り組むことが、改正後の節税対策として再評価されています。

改正に伴う手続きの変更点

　税制改正により、生前贈与関連の手続きにも変更があります。贈与税の基礎控除の新設に伴い、年間110万円以内の贈与については贈与税の申告が不要になりますが、110万円を超える場合には従来通り申告が必要です。また、確定申告の際には、電子申告の簡素化が進められており、最新のデジタル化に対応した手続きが求められる場面も増えると考えられます。これらの変更点を踏まえた上で、贈与計画を立て、改正後でも適切に対応できるよう準備を進めることが重要となります。税制改正は全体的に複雑化しているため、専門家のサポートを活用することも検討すると良いでしょう。

相続時精算課税制度と改正の連動性

相続時精算課税制度の概要

　相続時精算課税制度は、贈与税と相続税を一体化して計算し、相続時に最終的な税額を確定させる仕組みです。具体的には、生前贈与の際に2,500万円までの贈与を非課税とする制度で、その超過分には一律20%の贈与税が課されます。相続時には、これらの贈与額を相続財産に合算し、最終的に相続税額を計算します。この制度は、多額の資産移転を効率よく進めるための選択肢として広く利用されています。

年間110万円控除の追加の影響

　2024年の税制改正では、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新たに設けられます。従来、この制度を利用するとすべての贈与が申告対象となりましたが、新設される基礎控除により、110万円以下の贈与であれば申告が不要になります。これにより、小口の贈与に対する柔軟性が向上し、制度の使い勝手が大幅に改善される見通しです。一方、贈与税申告の簡略化が進むことで、贈与に対する意識的な管理が求められます。

選択すべき？暦年贈与との比較

　相続時精算課税制度と暦年贈与制度のどちらを選択すべきかは、家庭の資産状況や目的によって異なります。暦年贈与では、年間110万円までの贈与について非課税制度が長年活用されてきました。一方、相続時精算課税制度は、より多額の資産移転が可能であるものの、最終的に相続税額に影響が出る点が注意点です。計画的に小額の財産を移転させるには暦年贈与が適している一方、大きな資産を早期に移転させたい場合は相続時精算課税制度が有効です。税制改正に伴い、両者の基礎控除が調整されたことで選択肢が広がり、適切な制度を検討する重要性が増しています。

具体例で見る節税効果と限界点

　例えば、相続時精算課税制度を利用して2024年以降、年間110万円以内の贈与を行う場合、この金額については相続税や贈与税がかかりません。そのため、長期間にわたって計画的に贈与を行えば、多額の財産を効率的に移転できます。一方で、限度額を超える大規模な贈与を行った際には、相続時に合算されるため、結果として相続税負担が増加する場合があります。また、不動産などの評価額が変動する資産については、相続時に評価額が再計算されるリスクがあるため、慎重に検討する必要があります。税務の専門家と相談しながら、家庭ごとの最適なプランを立てることが重要です。

改正に備えるために今やるべきこと

税制改正に負けない効果的な対策

　2024年の税制改正により、生前贈与の加算期間が3年から7年へと延長されます。この改正は節税対策に与える影響が大きく、従来よりも計画的な贈与が求められるようになります。具体的な対策として、贈与税の年間非課税枠である「110万円控除」を活用することが重要です。また、大きな財産移転を予定している場合には、2023年中の贈与を検討することで、3年ルールが適用されるメリットを活かすことができます。さらに改正後に備えて、複数年にわたる長期的な贈与計画を立てておくことが有効です。

贈与・相続の計画的なシミュレーション

　税制改正後の影響を最小限に抑えるためには、事前にシミュレーションを行うことが重要です。例えば、暦年贈与によって一定の財産を移転するケースや、相続時精算課税制度を活用した場合の税負担を比較することで、自身にとって最適な選択を見つけることができます。また、生前贈与の加算期間が7年になることで、贈与のタイミングが非常に重要になります。このため、遺産総額や相続税基礎控除額を考慮して、家族全体で贈与や相続の計画を立てていくことが求められます。

改正後の手続きポイントと注意事項

　改正後の税制では、手続きが従来と異なる部分があります。例えば、相続時精算課税制度に110万円の基礎控除が新設されたことにより、控除額内の贈与については申告が不要となる場合があります。しかし、この制度を利用するには適切な記録保存や証拠書類の管理が必要です。また、大口の贈与や特定の非課税措置を利用する場合は、従来どおり確定申告が求められる可能性があるため注意が必要です。これらの手続き変更に備え、最新の税制情報を常に確認し、準備を怠らないことが重要です。